となりの専務さん
「……ねぇ」

専務が私に背を向けてキャベツ炒めを食べながら、声をかけてくれた。


「は、はい。なんですか?」

私はカーテンを戻す作業の手を止めて、専務に聞く。


専務を早く休ませてあげたい……と今思ったばかりなのに、話しかけられるとやっぱりうれしくなってしまった。



……が。


「……今日はこれ食べたら即寝る。そんで朝まで熟睡したい。夜中に起きたくない。寝言とかいびきで俺を起こさないでね」

顔だけチラッとこっちに向けて、専務はそう言った。


「は、はいっ。寝言もいびきもしないタイプなので大丈夫だと思いますっ」

うう、普段はこんな怖いこと言わないのに、どうやら想像以上に機嫌が悪いようだ。顔も怖いよ。


「で、では、お休みなさい」

そう言って、私は今度こそカーテンを壁に戻そうとするけど……。



最後に、もうひとことだけでいいから専務となにか会話がしたくて。


「……もし、寝言とかいびきで起こしてしまったら、どうしますか?」


なんて、とくに意味はないけど聞いてみた。



怒るよ、とか。許さないよ、とか。そんな感じの返事がくるのかな、なんて思っていたら。



「ブチ犯す」


……と返ってきた……。



私は身の危険を感じ、もうそれ以上はなにも聞かず、今度こそカーテンを画びょうで壁に戻し、静か〜に布団まで移動し、電気を消して、寝る準備に入った。



ブチ犯すなんて……私には刺激の強い言葉です。



ちなみに専務の機嫌は次の日には直り、「キャベツ炒めおいしかったよ」とほほえみながら、夜に壁の穴越しにお皿を返してくれた。

少し怖かったけど、専務のほほえみを見られたからキャベツ炒めばんざいです。




そういえば……壁の穴も最近はなんだか自然に使ってしまってるなあ。


……でも、初任給まであと少し。

つまり、壁の修理まで、あと少し……。
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