となりの専務さん
次の日曜日。
仕事はお休みだけど、私は朝の早い時間に起きていた。


「はい、みなさん。心をこめて、しっかりと取り組んでくださいね」

明るい声でそう言うのは、うちのアパートの大家さんだ。

大家さんはいつも元気ハツラツとしている男性で、もうすぐ七十歳になるらしい。今日も青い上下のジャージがよく似合ってる。


その大家さんの方針で、年に二回、四月と十月に、アパートの住人でアパートの周辺の清掃に取り組むことになってるらしい。
そのため、みんなで朝、ほうきやゴミ袋を持ってアパートの前に集合していた。



「あ〜〜、もうやだー。なんで私がこんなことしなきゃいけないのー」

と、さっきからしきりに「やだやだ」と言ってるのは、一階に住む、中野さんだ。

中野さんは私より少し年上の二十代の女性で、アメリカに語学留学するためのお金を貯めるため、家賃の安いこのアパートに住んでいるらしい。

背が高くて、スラリとしたモデル体型の、とてもキレイな人だ。


「中野さん、文句言わずにしっかりとやってください」

「ちっ」

大家さんと中野さんのそんなやり取りを聞きながら、私は専務の方へと目を向けた。


……こんな言い方がよくないと思うけど。
専務は、お金持ちの家で育った御曹司で……こんな、アパート周辺の清掃活動、なんて今まで無縁だったと思う。

だから、中野さんみたいに不満を持って取り組んでるんじゃ……と思ったら。



「ちょっと石川さん、ほうきを持つ手、止まってるじゃん。もっとハキハキやってくれる?」

……むしろとってもマジメに取り組んでいらっしゃる。


「は、はい、すみませんっ」

私も専務を見習って、専務といっしょに駐輪場の掃き掃除を続けた。
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