となりの専務さん
「今までのこと……ですか?」

専務は頷き、続ける。


「さっきも言ったけど、今まで告白してきた女の子はほとんど話したことないような子たちで」

「はい」

「昔からそうなんだよ。学生の頃からそのパターンがほとんどで。べつに俺のことほとんど知らないでしょって思う」

「そんな……」

専務の表情はとくに変わらなくて、とくに悲しんでる様子はない。
でも、専務の表情から専務の気持ちを読み取るのはやっぱり難しくて。
専務が今、どんな気持ちでこの話をしているのか……ちゃんと知りたい。


そんなことを思っていると。



「自分なりにいろいろ考えてみたけど……やっぱり世の中、金だね」

「へっ?」

突然とんでもないワードが降ってきて、私は思わず驚く。


「まあ正直、俺の家は金あるしね。あ、石川さんに言うべきことじゃないかもしれないけど」

「い、いえ。それはいいんですけど」

「君が俺と結婚してくれれば、君の家の借金くらい肩代わりしてあげるよーとか思ってるわけだから、家に金があるから女の子が寄ってくるのかな、なんて気にするのも変な話だけどね」

そう話す専務の眉が、やや下がっているように見えた。
ということは専務は今、きっと少なからず落ち込んでいる!
よし、ちょっとずつ専務の表情が読めるようになってきました!

あ、でも今は感動に浸ってる場合じゃない! なにか言って励まさなきゃ!
でも、なんて言えばいいんだろう……早く、早くなにか言わなきゃ!


混乱した私は。



「専務はかっこいいですから!」

思わず大声を出してしまって、慌てて声をひそめる。
近くに私たち以外の人は誰も見当たらないけど、誰かが聞いているかもしれない。
それに、専務はこのアパートでは“普通のサラリーマン”を装ってるようなので、アパートのご近所で専務のことを『専務』と呼ぶのはマズい。


そんなことを慌てて考えていたから、私は自分のとっさの発言の意味をちゃんと理解できていなかった。



理解できたのは、専務がなにも答えずにこっちを見ているから、変だなって思って、数秒経ってからだった。
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