となりの専務さん
専務はしばらくなにも言わずに私のことを見つめていた。

……あれ、なんだろ。なんでなにも言わないんだろう。やっぱり、変な発言だった?


すると専務は、突然ふいっと私から露骨に視線を逸らした。


「えっ」

がーん。ショックすぎる。なんで。変なこと言う奴だなって思われて呆れられた? いや、もしかして怒らせた? 嫌な思いをさせてしまった?


……そう思ったのだけど。



「……どうもありがとう」

そう言って、専務は再び清掃に無言で取り組み始める。


……あれ、もしかして?

顔を逸らされてしまっているから、表情は見えない。表情が見えたとしても、それを読み取るのはきっと難しい。


でも、初めて見る専務のこのリアクション。


困ったような顔で視線を逸らす、この反応。



……もしかして……照れ、た?




……いやいや、それはないか。

そして、専務はごみを拾いながらどんどんどんどん進んでいき、あっという間にアパートを一周してしまった。
専務のあとをついていった私も同じく一周達成し、大家さんにうっかり褒められてしまった。専務のそばにいたくて専務についていってただけなんですけどね……。




そんなこんなで、拾ってきたごみをまとめ終わった頃、専務は再び私の方を振り返ってくれた。


そして、わかりにくいけどやさしい表情で。


「……話は戻るけど、君に手を出さないっていうのは本気だから」

「え?」

専務は、なんでもないようにさらっとそう言うと、「ああ、シャワー浴びたい」と言いながら背伸びをした。




……ずるい。
それってなんだか、大事にされてるみたい。


女の子に告白されても困るみたいなこと言ってたくせに。

私は専務のこと……好きになっても、いいの?


理由はどうあれ、専務は私に結婚しようなんて言ってくれてる。
ほんとに理由はともかくだけど、でも、専務は私のことを、少なくとも嫌い……ではないはず。好意をもってくれてるなんて、うぬぼれてはいないけど……。




……大事にすると言ってくれてる、その気持ちがうれしい。


処女で鈍感でちんちくりんでお金もない私ですが…….一パーセントくらいなら……私にも可能性はあるんですか……?
< 96 / 230 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop