お帰り、僕のフェアリー
終演後、由未は静稀のファンクラブの出待ちを仕切りに行き、ぼくはホテルに帰った。
由未にはどんなドレスが似合うだろうか、と、思いつくままデザインを書き散らす。
明るく華やかだが、甘くない、むしろシャープ。
ハッキリとした色と潔いフォルム。

静稀に対するものとは違いが出るのがおもしろかったので、全てをフランスに送信してみた。
フランスからは予想外の反応が返ってきた。
伯父は、由未の写真を見たがった。
そして、Catherine(カトリーヌ)が気に入ったてるのでもっと送ってほしい、と、Alain(アラン)から返信が来た。

……もう15年会ってない我が従妹がどんな女性に変化したのか……僕はそんなこと考えもしなかったのだが、はじめて、カトリーヌ自身に向き合ってみたい気持ちになった。
僕の理想のフィルターをはずして、たぶん素敵な女性になっているだろう従妹殿。
やっと、彼女を理解できそうな気がする。
つくづく、僕は子供だったんだな。
視野の狭さに改めて気づいた夜だった。

週末、フランス大使館で、Fête de la musique(音楽の日)を祝うパーティーが開かれた。
僕は約束通り由未を連れて行き、大使夫人に紹介する。

フランス語はほとんどできない由未だが、事前に静稀に訳してもらった自己紹介の文章を暗記してきて何とかフランス語でご挨拶した。
……この時由未が持参した名刺は書家である旦那さんの手書きだそうで……一流の手蹟は異国人にも伝わったのか、それとも出席者の身元を調べてるのか、その後、由未は夫妻で夫人のご招待を受けることになる。
由未の旦那さんはメディアに一切出ないものの、依頼には事欠かない忙しいかたなのだが、妻には甘いらしい。
以後、たまに頼まれて大使館関係の仕事を引き受けていたようだ。
そんな風に、ご縁がつながっていくのは楽しいことだ。

由未は、フランスという国に対しても興味を抱いたらしく、本格的にフランス語を学びだした。
僕と一緒に暮らした2年間に目覚めてくれてたら、しっかり教えてあげたのに。
僕がそうぼやくと、由未は首をすくめた。
「セルジュは厳しいから、教わりたくない。静稀さんには習いたかったな~。でも、あの頃の静稀さん、忙しかったし、どっちにしても無理やったね。」
……まあ、静稀は今も変わらず忙しいけどね。

静稀の二番手公演は、大盛況のなかでB日程を終えた。
連日立ち見も出ていたが、A日程に戻ると、客席は落ち着いた。
実力のみならず、人気も、チケットの売れ行きも、静稀が上だということを如実に示していた。

また、最終週の土曜の夜に行われたお茶会も、800人を越えたらしい。
会場を広げても広げても追いつかず、石井さんがうれしい悲鳴をあげていた。

それもあったので、僕は今回はお茶会の会場に入らず、控え室でモニター越しに観るにとどめた。
……まあ、一番の理由は、予想以上に僕の個人情報がネット上にけっこう流れてしまってることなのだが。
石井さんは、全く動じず、逆にここまで来たら僕を静稀の専属デザイナーとしてスタッフ扱いしているようだ。
いずれにしても、目立たないようにしたほうがいいだろう。
静稀は不満そうだったが。

お茶会の後、僕の部屋にきた静稀は盛大にむくれていて……それはそれで可愛かった。
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