お帰り、僕のフェアリー
そうこうしてるうちに、東京公演が千秋楽を迎える。
前夜、僕らはいつも以上にウェットだった。

千秋楽が終わると、静稀はそのまま家族と共に実家に帰って見合いをする。
僕のほうは、千秋楽の夜に法務大臣の孫娘との見合いが設定されていた。

結局、僕は静稀に何も言わないまま、見合い会場のホテルに向かった。
〈千秋楽おめでとう〉のメッセージを送ったが、静稀からの返事はなかった。
忙しいのかな?

ホテルに着くと、父がロビーでそわそわと僕を待ち構えていた。
「早いね。まだ約束の時間まで30分以上あるんじゃない?」
そう言ながら父に近づく。

父は僕を見て、駆け寄ってきた。
「セルジュくん……来てくれたんだね……ありがとう。」

「そりゃ来ますよ。子供じゃないんだから、引き受けたからには、逃げませんよ。」
僕は肩をすくめてそう言った。

すると、父は変な顔になり、少し押し黙る。
「どうしたの?」

父の様子が変なので、そう聞いてみると、僕の背後から別の声。
「松本くん、ご子息かね?」

振り返ると、ニュースや新聞で見覚えのある顔。
外務大臣だ。

「はじめまして、父がいつもお世話になっています。聖樹と申します。この度は、若輩の私のためにお時間をお取りいただき、申し訳ありません。」
とりあえず、僕はそうご挨拶して頭を下げる。

大臣は相好を崩して何度もうなずいた。
「いや、噂は聞いていたが、なるほど。」

どんな噂なんだか。
「恐縮です……」
僕は控えめにそう言ったが、大臣は好意的に捉えてくれているらしい。

「あの、大臣、先様(さきさま)は……」
父が恐る恐る大臣に尋ねる。

大臣は、かぶりを振った。
それを見て、父はため息をつき、僕に向き直る。
「セルジュ、見合いは明日に延期だ。」

え?

大臣が僕に
「すまないね。先方の都合で君に迷惑をかけるが。」
と仰り、僕は拍子抜けした。

つまり……法務大臣の孫娘が、お見合いを嫌がって、逃げた?ってことか?
僕は、苦笑した。
……静稀みたいな子だな。
てか、向こうが嫌なら、お見合いを延期ではなく中止にしてもらったほうがいいんだけど。
そう言いたいのを飲み込んで、大臣を見送った。

「じゃ、僕は帰るよ。」
滞在してるホテルに帰ろうとそう言うと、父に引き止められる。
「今夜はこっちのホテルに泊まりなさい。」
なぜ!?
めんどくさく感じて文句を言いたかったが、有無を言わせぬ父の物言いに従った。

「当事者2人にその気がないなら、見合いしても無駄じゃないの?」

小さな抵抗は示しておいたけど。
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