お帰り、僕のフェアリー
静稀は、公演が始まってからも、お稽古を積み重ねた。
……ムラ公演で、渚さんに圧勝してたし、もう充分だろうと思うのだが……静稀は頑固に言い張った。
「何度も見てくださるファンのかたに、ムラの時より成長した姿を見せなきゃいけないから。」

この生真面目さが静稀だとは思うものの、そこまで自分をおいつめなくても、と僕は心配になる。
もっと肩の力を抜いて、楽しめばいいのに、とも。

まあ、静稀の性格もあるだろうが、結局は役替わりや抜擢のプレッシャーから逃れる術はお稽古のみ、ということなんだろうな。
今の僕にできることは、静稀に愛と安らぎを充分に注ぐことだけ。

僕は静稀を甘やかし続けた。

静稀が二番手を勤めるB日程が始まった。
僕は、由未と一緒に、一階後方で観劇した。
「静稀さん、また上手くなった!」
幕間に、興奮気味に由未が言った。

「ああ。」
「すごいねえ。歌も芝居も、深くなってるよね。」

それだけのお稽古を積んでるから、な。
それに、今回の役は、渚さんよりも静稀に似合ってるような気がする。

「静稀には苦悩する青年役が似合うんだろうな。」
舞台に立ってるくせに内向的だから。

「……あんまり、静稀さんを悩ませんといてね~?」
由未が、突然僕に苦情を言ってきた。

は?
なんで?僕が?
きょとんとしてると、由未が片方だけ口の端を上げる。
「セルジュが独りでパーティーに出ること、静稀さん、傷ついてるもん。」

……あ~~~~。
静稀、由未に愚痴ってるのか。
「静稀が退団するまでは連れてくわけにはいかないから、しょうがないよ。」
僕はそう言ってやり過ごそうとした。

が、由未はふふふんと鼻で笑った。
「うん、それはわかる。せやし今後は私を連れてって。セルジュが浮気しないようにお目付役を言いつかったから。」

え?

「……君が?来るの?旦那さん、怒らない?」

由未は、ぷっと吹き出した。
「怒るわけないわ。セルジュは完全に安全牌。次、いつ?週末?どんな格好がいい?訪問着でいいの?」

……なるほど。
それは僕にとっても都合がいいかも。

「ありがとう。それじゃこれからは由未に来てもらおう。そうだね……秋になれば華やかな和装も映えるだろうけど、これからは暑いだろうしドレスでいいんじゃないか?う~んと美しく装っておいで。アクセサリーもお忘れなく。」
僕に興味を抱いたお嬢さんがたが近づくのをためらうぐらい。

「ただし、お行儀よく振る舞ってくれよ?恥かきたくはないから。」
由未の行儀作法が少し心配なので、ついそう付け足してしまった。

気を悪くした様子もなく、由未はうなずいた。
……静稀と違って、物事を深く暗く考えないところは、由未の長所なのだろう。

親友の妹、ではなく、一個の女友達として、由未はイイ子だ、と僕は改めて感じた。
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