お帰り、僕のフェアリー
外務大臣は、形通り、両家を紹介した後、本題に入った。
「……とまあ、茶番はここまでにして、松本くん。この通り、高橋大臣は、本気でご子息に静稀ちゃんを嫁がせたいと思ってるんだが、君のほうに異存はあるかね?」

父は姿勢を正した。
「ありがとうございます。愚息を婿に遣わすこともできますのに、本当にお嬢様が我が家の籍に入ってくださる形でよろしいのですか?」

「ふふ。私も、主人の籍に入りましたのよ。高橋の名前は不便ですもの。ね、お父さま。」
静稀の母が無邪気に高橋法務大臣にそう言った。

法務大臣は、苦笑いしている……孫娘だけじゃなく娘にも甘いようだ。

「私は名前にはこだわらない。静稀が幸せならそれでいい。……もし、静稀に男子が生まれたら、私の地盤を継いでくれたらうれしいが、な。」

それを聞いて、静稀がふくれた。
「嫌ですよ!政治家になんかさせません!選挙のたびに寿命が縮まっちゃう。絶対、嫌!」

……静稀……せっかくまとまりかけている話に、水をささないで……。

しかし法務大臣は、怒らなかった。
むしろ、孫に自分の職業を嫌われて、しょんぼりしてらっしゃるようだ。

何だかかわいそうに感じたので、僕は静稀を窘める。
「静稀。全ては本人の望み次第だよ。子供の将来を親が決めちゃいけない。僕らも、自由にさせてもらってるだろ?それだけでもありがたいことなのに、こんな風に、背中を押していただいて……感謝いたします。」

僕はぐるりと見渡すと、一人一人に手をついてお礼を言った。

「高橋法務大臣!いえ、おじいさま!先ほどは大変失礼いたしました。若輩の身ですが、静稀さんを大切にします。よろしくお願いします。」

おじいさまは、満足そうにうなずいた。

「お母さま!いつかはありがとうございました。また、長らく温かい目で見守ってくださって、ありがとうございます。」
「こちらこそ、いつも静稀に優しくしてくださって、ありがとう。劇場でお見かけする度にセルジュさんにお声がけするのを我慢してましたのよ。これからはご一緒に観劇しましょうね。」
……静稀が妖精だとしたら、お母さまは天使だな。
僕はお母さまに、微笑みかけてうなずいた。

「大臣。お忙しいのに、僕たちのために、お立ち回りくださり、ありがとうございます。これからの結納、結婚式、披露宴でも、よろしくお願いします。」
僕が外務大臣に対してそう言って頭を下げると、静稀もまた僕に習った。

敢えて僕は父を無視したが、静稀が後を引き受けた。
「お父さま、ふつつか者ですが、よろしくお願いします。」

父は心底うれしそうに
「こちらこそ、よろしく。やっとお会いできましたね。」
と笑った。
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