お帰り、僕のフェアリー
ご挨拶を終えたところで、お膳を運んでいただく。
……やはりおだしのイマイチな和食をいただきつつ、外務大臣がおじいさまに確認される。
「それでは、結納は秋にいたしましょうか。ご結婚は、まだ先ですか?」

おじいさまは、父に了承をとられた。
「よろしいですかな?」

もちろん父に異存があるわけもない。

「あの、私、もう、退団しましょうか?」
静稀がおずおずとそう言い出すが、お母さまとおじいさまと僕に一斉にダメと言われて、ちょっとかわいそうだった。
せっかくここまでがんばってきたんだ。
あと数年でトップに手が届く。

静稀のため息をつく様子が、妙におかしくて、僕は笑ってしまった。
口をとがらせて、静稀が嘆く。
「だって、私、ず~っとセルジュに待ってもらってて、心苦しいもん。」

僕は笑いをおさめて、真面目に答えた。
「まだ付き合って8年めだよ。僕は20年待つ覚悟をしてるんだから、全然大丈夫。でも、専科には行かないでね。」

「20年……。」
おじいさまが、目を丸くしてそうつぶやかれた。

僕はともかく、おじいさまはそこまでお待ちできないかな?
「ええ。榊高遠くんが研1の時、当時のトップスターは38才で退団しました。単純計算で20年かかるな、と。」

僕は事もなげにそう言ったが、おじいさまだけでなく、お母さまも、外務大臣も、父も黙ってしまった。

静稀にいたっては、ホロホロと涙をこぼす。
「セルジュ……私……。」

「泣かないで。ごめんね、気づかなかったよ。僕を待たせてる、なんて思わなくていいんだよ。僕はずっとそばにいるんだから。静稀と一緒にいられれば幸せなんだから。」
僕は慌てて、にじり寄り、静稀の涙にハンカチを押し当てる。
「せっかくの着物に涙が落ちたらシミになっちゃうよ。それに、おめでたい席だよ。泣かないで。笑って。」

背中をさすってあげたいけれど、帯が邪魔で手を回せない。
いつものように抱きしめるわけにもいかず、僕は静稀の涙を止めようとなだめる。

お母さまが、やはり涙を浮かべながら、静稀の肩を抱いて、頭を撫でた。
「静稀ちゃん、本当に幸せね。セルジュさんがこんなに心の広い優しいかたで……」

……いや、お母さま、それは誤解です。
僕は静稀に甘いだけで、むしろ心の狭い男です。
せっかくいいように誤解してくださってるので、僕は黙っていたけれど。

とにかく、僕らは、家族公認の仲となったらしい。
秋に結納を交わしたら、名実ともに婚約者だ。

……婚約指輪の発注をかけなきゃ。
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