お帰り、僕のフェアリー
結納の日取りを決めて、外務大臣とおじいさま、父は退席された。
お母さまと静稀と僕の3人が残り、和やかな会席を続ける。

「静稀ちゃん、本当にセルジュさんにおじいさまのこと、何も言ってなかったのねえ。」
コロコロと笑いながら、お母さまが静稀をからかう。

「お母さま、どうか、セルジュと呼び捨てください。」
気恥ずかしくて、僕はそうお願いしたが
「あら。私、呼び捨てって、苦手ですの。それに、セルジュさんのお父さまも『セルジュくん』とも呼んでらっしゃるじゃありませんか。」

確かにそうなのだが。
僕は諦めた。
お母さまには、かなわない気がする。
幼少時に母を亡くしたせいか、僕は静稀の母をもう愛しく大切に感じ始めていた。

「あの、お父さまにもご挨拶させていただきたいのですが……いつ頃でしたら、ご都合よろしいですか?」

僕が、お母さまにそうお伺いすると、静稀がうれしそうにはしゃぐ。
「あ!じゃ、一緒に帰ろう!お父さま、土日もお仕事で出ること多いし、夜お家で待ってるのが一番いいから!」

え!?
今日これから!?

「それは、ご迷惑でしょう!」
さすがにそれは、ダメだろう。

僕は当然、日を改めるつもりだったのだが、お母さままでが乗り気になってしまった。
「あら。来て下さるの?うれしいわ。ひろさんに、美味しいもの作っていただかなきゃ。」

ひろさん、というのは、家政婦さん?かな?
静稀が、我が家でマサコさんの存在をすんなり受け入れて自然に過ごしていたことに、あらためて納得する。

「……でも、よろしいのかしら。今夜はこちらのホテルにお二人でゆっくりされてもいいのですよ?本当は夕べそのつもりでお部屋をお取りしてましたのに……ねえ?」
お母さまが、僕に同意を求める。

「そうですね。せっかくのスイートルームでしたのに、もったいないことをしてしまいました。」

「スイート!?」
何も知らされてなかった静稀が声をあげる。

「静稀ちゃんがはしたなく逃げるからいけないんですよ。」
めっ!と、かわいらしく静稀を叱るお母さま。

「だって……どうしてもセルジュに逢いたくなったんだもん……あの状態で他の人となんか逢えないって思ったんだもん。」
しょんぼりそう言う静稀に、僕の理性がぐらぐらと音を立てて揺らぐ。

抱きしめたい!
口づけたい!
せめて、静稀の手に触れたくて、じりじりにじり寄る。

「本当にねえ、昔はこんな強情な子じゃなかったのに。歌劇団に入りたいと言いだしてから、静稀ちゃんは変わってしまったわ。」
お母さまがため息まじりにそう歎かれる。

首尾よく自然に静稀の手をとれた僕は上機嫌になる。
「目標ができて、静稀は強くなったんだね。えらいえらい。」
そう言いつつ、静稀の手の甲に口づけた。

静稀は赤くなっていたが、手を振りほどくことはなく、おとなしく僕に寄り添った。
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