お帰り、僕のフェアリー
高橋・小堀家は、思った以上に大きな家だった。
純日本家屋風の外観と庭の中に、住心地のよさそうな最新式の現代和風建築。

「ほら、ここが私のお稽古場。床が、セルジュの家の玄関ホールと同じでしょ?」
まず静稀に案内されたのは、なぜか、鏡張りのお稽古場。
……自宅にこんなものを作るとは……静稀は、家族の並々ならぬ愛情をたっぷり注がれて育った一人っ子お嬢さまだったんだなあ、と、改めて僕は静稀を眺めた。
いろんな意味で、僕らは似た者同士だな。

「静稀ちゃん、お稽古場より先にひろさんにご紹介しなきゃ。」
お母さまがそう言いながら、エプロン姿のふくよかな女性を伴ってこられた。
「セルジュさん、こちらは我が家の5番めの家族の、ひろさんです。私が何もできないから、全部やっていただいてるのよ。ひろさん、こちらが噂の婿殿よ。」

「噂、だったんですか?はじめまして、松本聖樹です。よろしくお願いします。」
僕は、深々と頭を下げる。

ひろさんは、慌てて
「まあまあ!頭を上げてください!もったいない!」
と恐縮してらっしゃるようだ。

「ひろさん、ただいま~。夕食なぁに?」
静稀がニコニコとひろさんに甘えてる。

……さすがにひろさんに嫉妬したりはしないが、僕は後で静稀の笑顔を独占することを心に決めた……世間ではこういうのを嫉妬というのだろうが。

「セルジュ、ひろさんは大阪出身だから、うちのお料理は関西風の味付けなの。よかったねえ。」
僕が、1ヶ月半の東京暮らしで関東の和食に辟易してることを知ってる静稀がそう言った。

それは本気でありがたい。

「あの、お嬢様……ご結婚が決まったのでしたら、多少お料理のお勉強もされたほうが……」
まったくその気のない静稀に、ひろさんが遠慮がちに耳打ちする。

静稀は、目を見開いて、僕を見た。
僕はその顔を見て、吹き出した。
「そういえば、静稀の手料理、いただいたことなかったね。」

「はい。あの……ちょ、調理実習でしか、包丁握ったことなくて……」
静稀は、恥ずかしそうにそう言った。

僕は静稀の手をとって、指に口づけた。
「いいんだよ。榊高遠くんの綺麗な指に火傷や切り傷を作っちゃ大変だ。例え、静稀の部屋に包丁がなくても、やかんがなくても、愛してるよ。」

「まああぁっ!」
「キャーッ!」
ご婦人お二人に叫ばれてびっくりしたけど、僕は静稀の笑顔が見られてうれしかった。

……まあ、静稀を甘やかし過ぎてる自覚はあるが……問題ないだろう。

静稀が、静稀のお母さまのように、いつもにこにこ幸せそうに笑ってらっしゃることが、僕の幸せだから。
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