お帰り、僕のフェアリー
「ただいまぁ……セルジュぅ~……終わった~~~。」
真夜中に、静稀が僕の部屋に泣き腫らした瞳でやってきた。

「16年間、お疲れ様、榊高遠くん。おかえり、静稀。」
部屋に静稀を招き入れ、抱きしめる。

静稀は僕にしがみついて、また、め~め~泣き出した。
「偉かったね。最後まで、かっこよかったよ。さよならショーも、ご挨拶も、パレートも、フェアウェルパーティーも、よくがんばったね。」

もちろんその全てを僕も、静稀のご両親とおじいさまも見届けた。
静稀は僕らを見る度に、瞳を潤ませたが、それでもしっかり男役榊高遠を貫いた。

フェアウェルパーティーの後、僕ははじめて静稀に婚約者として咲ちゃん達仲良しの組子に紹介された。
……まあ、言わずもがなで、みんな知ってたけど。

「はあ~。ほんっとに、がんばったよね、私。」
僕の腕のなかで、そう言って、鼻水をすすると、静稀は僕の両腕をつかんで僕を見てこう言った。
「長い間、お待たせしてしまって、ごめんなさい。これからはセルジュだけの静稀です。もう、セルジュの側から離れない。よろしくお願いします。」

僕だけの、静稀、か。
子供みたいだが、僕はそれを聞いてうれしくなってしまった。

「僕だけの、ね。」
僕は、静稀の首元に口づけて、強く吸い付いた。

「ん……」
静稀は恥ずかしそうに、おとなしくキスマークを付けられている。

かわいい。
されるがままになっている静稀に、調子付いて、僕は首筋から胸元、腕と、見えるとこにいっぱい吸い付いた。

「明日は、一緒にここをチェックアウトして、手を繋いで外を歩こう。新幹線も一緒に乗れるね。」

……今までいかに我慢してきたか……改めて、僕らは笑い会う。
もう、誰に遠慮することもない。
晴れて、ふたりは、恋人同士、いや、結納もとっくに交わした婚約者。

しかも30半ばの男女が、「外で手をつなぎたい」なんて……不倫関係でもあるまいし。

でも、遠い夏の日、静稀がまだ研1の早朝以来、僕らは他人の目のあるところでは触れ合うことも言葉を交わすこともなかった。

「甘えんぼの静稀が、本当によく我慢したよね。」

僕がそう褒めながら静稀の頭を撫でると、静稀はうれしそうに胸を張った。

「もう我慢しない。人前でも電車の中でもエスカレーターでもイチャイチャしちゃう!パーティーも一緒に行くもん。スカートもワンピースもドレスも着るもん。」

「……公序良俗に反することはしないよ……それにパーティーも別に……」

この数年で、それなりに僕らの周囲は変化して穏やかになっていた。
おじいさまは既に政治家を引退されてるし、フランス大使も別のかたに代わった。

相変わらず僕のところには色々な招待状が舞い込んではくるが、行く必要のないものばかりだ。
もっとも、フランスに行けば、それはそういうわけにはいかないだろうが。

とりあえず、これからは今までできなかったことをいっぱいしよう。
結局まともに2人で旅行もできなかったし、あちこちに行こう……新婚旅行は静稀が飽きるまでフランスで暮らそう。

僕らの未来は輝いて見えた。
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