お帰り、僕のフェアリー
翌朝僕らは、早速2人で手を繋いで朝食ビュッフェへ赴いた。

スカートの静稀は昨日までとは別人として、ひと目を気にせず堂々と振る舞った。
静稀は柔らかい笑顔と声で、僕と会話しながらの朝食を楽しんだ。
声をかけてきたおばさまもいらしたが、榊高遠くんとしてではなく静稀のまま普通に笑顔で会話をしていた。
「お疲れ様」と「お幸せに」の言葉に、僕もまた笑顔で感謝を述べた。

ゆったりと朝食を終えて、一旦部屋に帰り、荷物をまとめて送ってもらう手続きを済ませてチェックアウト。
もうここに長期滞在することはなくなると思うと、淋しい。
しんみりそう思ってると、支配人と花束を持ったマネージャーが
「長らくのご愛顧ありがとございました。ご卒業おめでとうございます。」
と挨拶してくださり、静稀のみならず、僕も涙を潤ませてしまった。
「ずっと見守ってくださって、ありがとうございます。今後も東京に来るときは必ずこちらにお世話になりますので、よろしくお願いします。」
……実際、他のホテルではこうはいかないだろう、という気遣いをたくさん受けてきた僕らは心からそう言って、ホテルを出た。

タクシーで東京駅に行くつもりが、
「お散歩したい。」
との静稀の言葉に、僕らは腕を組み、ゆっくり歩いて東京駅へと向かった。

大都会でもお堀を渡る風は、柔らかい春の色をしていた。

東京からの帰路は、駅でも、エスカレーターでも、新幹線の座席についても、静稀は宣言通り僕の腕から離れなかった。
僕は、かなり不便を感じながらも、幸せだった。

かわいい静稀。
やっとこうしていられるんだもんね。
気が済むまで、僕に張り付いていればいいよ。
いや、いくつになっても、僕らはずっとこうしていようね。

僕もできるだけ人目を忍んで、静稀の頬や額に口づけを繰り返した。

ようやく訪れた自由を、僕らは満喫した。


我が家に帰宅すると、マサコさんが笑顔で出迎えてくれた。
僕らの留守中に、静稀の荷物は既に我が家に運ばれ、マンションの解約も終わっていた。

今日から、静稀はここに住む。
楽しい日々が始まる。

……静稀はお料理も覚える気になっているらしい。
無理のない程度にね。

しばらく、僕らはゆっくり過ごした。
一緒に買物に出かけ、一緒に美術館や博物館で見聞を深め、一緒に二人の出会った図書館で様々な分野を学んだ。
静稀はフランス語に真剣に取り組み始めた。

僕は静稀に足りない教養を補うべく、歴史の教本や、古典作品、文学作品を勧めた。
やはり静稀は勤勉で優秀だ。
どんどん吸収していく理解力と記憶力に、僕は内心舌を巻いた。
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