腹黒司書の甘い誘惑
理事長はしっかりと柊也さんを見て、穏やかにそう言った。

柊也さんはゆっくりと顔を上げる。

「……ありがとう」

小さい声だった。
それでも、心が温かくなる言葉。

理事長も柔らかく頬を緩め、柊也さんの肩をポンと優しく叩いた。


止まっていた二人の時間が動き出した。

温かく、柔らかい雰囲気にほっとする。

きっとこれから兄弟らしい二人を見れるような気がする。

なんだか……自分の兄に連絡してみようかなって思った。

そういえば普段、わたしから連絡をしたりすることってないような気がする。

柊也さんと理事長を見ていたら、急に兄と話をしたくなった。

なんでもいい。
『今度いつ実家に帰る?』とか、そんな話題でいいから。


そんなことを考えていたら、柊也さんがわたしに振り向いた。

彼は眉を下げながら、わたしにそっと微笑んだ――


柊也さんはしばらく理事長と話をしたあと、図書館へ戻ってきた。

読書用のテーブル席の椅子を引いて座ると、長く息を吐き出した。

わたしは隣に同じように座り、彼を見つめた。

「兄さんとあんな風に話をしたのは本当に久しぶりだ」

「よかったですね」

微笑むと、柊也さんはじっとわたしを見つめてきた。
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