腹黒司書の甘い誘惑
「え?」

間の抜けた声を出したわたしに対し、電話の向こうの柊也さんは最初、黙っていた。

嘘、まさか、このタイミング。

『早く』

柊也さんの声を聴いて胸がいっきに鳴りだす。

『部屋に入れて、理乃』

「あ……」

なんで、もう、どうして。
わたしは立ち上がり、すぐにインターホンの場所へ向かう。

今日他に予定ができたって言ってたよね?
だから明日にしようって。なのに、どうして――

玄関で待っていたら、会いたかった柊也さんが現れた。

「悪いな、遅い時間に」

スーツの上にコート、そして首にはわたしが誕生日に渡した紺のマフラー。
声よりも先に体が動いて、わたしは彼に抱きついてしまった。

「……勢いがいいな」

「だって柊也さん、会いたかった」

「うん。本当にごめん」

柊也さんはわたしをしっかりと抱きしめ、包んでくれた。
その温もりにほっとする。安心する。

「中へ入れてくれないか? このままだと君の体まで冷える」

「うん……」

返事をしながらも離れないでいると、柊也さんはわたしの体を軽く持ち上げ抱きしめたまま部屋へと上がった。
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