腹黒司書の甘い誘惑
唇の端を上げてわたしを馬鹿にするような瞳を向けてくる相手に怒りがふつふつとこみ上げてくる。

「失礼します!」

わたしは今度こそ彼の横を通り、ドアに向かっていった。

その時も彼の口許はやはり緩んでいた。もしかしたら、見透かしているのかもしれない。

本当に性悪。なにが愛想よ。
もう絶対に関わりたくない。

だけど、また彼が本を頼んだりしたらわたしが運んだりすることがあるだろう。

あんな人に一目惚れした所為でいちいち嫌な気分にならなくてはいけないなんて最悪だ。

館内を出たあとわたしは早足で通路を進み、台車を片付けて事務室に戻った。

思ったよりも力が入ってドアを勢い良く開けてしまい、デスクで仕事をしている豊子さんと美鈴さんが見ていた手元から視線をあげた。

そして豊子さんが首を傾げて声を出す。

「理乃ちゃんどうしたの、怖い顔して」

「あ、いや……」

眉根が寄っていたみたい。わたしは俯いて、静かに自分のデスクに向かった。

この怒りを発散したいけれど、お二人は柊也さんのことを良い人のように言っているから、話しづらい。
しかし、限界だった。

「……あの、司書の柊也さんって変わった人ですよね。なに考えているかわからないというか」

悪口には聞こえないような言葉を選んで二人に言った。
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