腹黒司書の甘い誘惑
答えたわたしを理事長は見据える。
本当に何も聞いていないのかと、見抜こうとするような瞳だった。

わたしは息が詰まるような雰囲気に困惑する。

やはり、お二人は仲が悪いのかも……。

堪らず目をそらそうかと思ったとき、足音がして顔を向けると柊也さんがこちらに向かって歩いてきていた。

不機嫌そうな表情をしている。

そしてそのままわたしたちの横を通り、昇降口の脇に並んでいる自販機で飲み物を買い始めた。

この前と同様、兄弟なのに挨拶もしない、目も合わすことのない二人。
すごく気まずい空気を感じて、わたしが落ち着かない気持ちになってしまう。

すると、そばにいる理事長が穏やかな声をだした。

「引き止めて悪かったね」

「あ、いいえ」

理事長はやわらかく微笑み歩き出して、近くにある中央階段を上っていった。

その背中を見つめたあと、わたしは体を自販機のほうへ向けて足を進めた。

そして柊也さんのそばへ寄る。

今日は自分で飲み物を買いにきたのかと見ていると、柊也さんが振り向いた。

彼はペットボトルのお茶とコーヒー缶を持っていて、無言でお茶をわたしに差し出してきた。

「え……?」

「君に向かって差し出してるんだから受けとれよ」

そっけない声でそう言った柊也さん。
わたしは慌ててお茶を受けとった。
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