腹黒司書の甘い誘惑
何も知らないみたい。
豊子さんがそうなら、美鈴さんも同じだろうな。

そんなことを考えながら豊子さんに笑みを作っていると、事務室のドアがノックされた。

荒くない、物静かな叩き方。
生徒や来客なら窓口を覗くだろうから、たぶん職員だと思う。

「誰ですかね」

豊子さんと首を傾げたあと、わたしは立ち上がってドアに向かった。

そしてドアノブを握り、開けると。

「こんにちは」

そこには穏やかな笑みを“作っている”柊也さんが立っていた。

わたしはドキリとして固まってしまう。
そんなわたしに一瞬、小馬鹿にするような視線が向いた気がした。

「あら、柊也くん。どうしたの?」

わたしの後ろから豊子さんが声をかけると、柊也さんは人の良さそうな笑顔を豊子さんに向けた。

「そろそろ本立てが届いている頃かなって、伺いに来たんです」

なんなんですか、その好青年風な表情は!
本当のあなたはそんな人間じゃないですよね?

わたしは呆然としながら柊也さんを見つめている。
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