腹黒司書の甘い誘惑
よくわからないなあ、と首を傾げたわたしだけれど、胸に残るどきどきの余韻を振り切るために一呼吸して棚の掃除を再開した。

だけど先程の光景が頭をよぎって集中できなかった。

わたしの腰にまわっていた腕を思い出して、ひとり赤面してしまう。

背中にあった温もりとかも……。だめだ、考えちゃだめ!

ぶんぶん首を振って目の前の本棚に集中した。
棚を拭き、本を戻し、てきぱきと動いた。

「掃除終わりました」

カウンターのほうへ戻り、座っている柊也さんに向かってそう言うと彼は手元を見ていた視線を上げた。

笹本先生の姿はない。
たぶん、職員室に戻ったのだろう。

「どうも。今日は終わり。それで明日からは来なくていいから」

再び手元に視線を戻した柊也さんのあっさりとした声に、わたしは俯く。

本当に今日で手伝いは終わりなんだ。

「あ、あの……」

「なに?」

言葉を発しようとして唇を結んでしまう。

喉まで出かかっているのは『本当にもう手伝わなくていいんですか』という、馬鹿な質問。

胸にあるのは『会う機会が減ってしまう』というがっかりした気持ち。
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