腹黒司書の甘い誘惑
普通に伝えたら柊也さんの性格だ、絶対に馬鹿にしてきたりからかってきたりする。

だから言いにくい。
真意を隠したうまい言い方も思いつかなくて、どうしようかと迷っていたとき。

「来週の金曜、定時で仕事上がって駐車場にきて」

「え?」

顔を上げて柊也さんの方を見る。
彼はこちらを見ず淡々と言葉を発していく。

「この前の保育園に行くから」

わたしは目をぱちぱちとさせた。

「わたしも行くんですか?」

「君をアシスタントだと紹介したのに、連れてきたのは一度だけなんて変に思われるだろ。だから何回かは一緒に行ってもらわないと」

「な、なるほど」

確かにそうだな、と思いながら、毎日ではなくなってしまうけれど次に会う理由ができたことにわたしはほっとした。

「来週の金曜日ですね」

「ああ」

「わかりました」

わたしは緩みそうになる口許に必死で力を入れていた。

「それでは、失礼します」

軽く頭を下げてそう言うと、柊也さんはわたしに視線を向けた。

「お疲れさま」

そっけない声。だけどなんだかくすぐったい感じがして、わたしは瞬きをしながら目をそらした。

「……お疲れさまでした」

そう言ってすぐ、体を出入り口の方へ向けて歩き出した。

簡単に鼓動が速くなるの、困るんだけど。これはどうにかしないとまずい気がする。

図書館から出たわたしは早歩きをしながら胸を押さえ、響く高鳴りに溜め息を吐いた。
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