おふたり日和 ―同期と秘密のルームシェア―
胸の奥底にしまいこんだはずの気持ちが、のどを絞りつけるようにしてこみあげてきて。



そして、あふれた。




「会いたいよ、トラ………」




こんなことを願うことさえ、罪かもしれない。



きっと、トラはもう、五十鈴さんと結婚しているのだろう。



でも、会いたい。


こみあげてくる気持ちは、ごまかせない。




「トラ、トラ………会いたい」




気がつくと私は、トラと二人で暮らしたマンションの前にしゃがみこんで、


トラ、あいたい、


とつぶやきつづけていた。



さぞかし不気味な女だと見えていただろう。



何時間そうしていたのか、からだが冷えきって動かなくなっても、私はそこに座り続けていた。



マンションの住人が、見て見ぬふりで、あるいは好奇心を丸出しにして、横を通りすぎていく。



大丈夫ですか? と声をかけてくれるひとも、たまにいた。


私は大丈夫です、とバカの一つ覚えみたいに繰り返した。



心配してくれた人も、それで困ったようにしばらく横にいて、それからマンションに入っていった。




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