おふたり日和 ―同期と秘密のルームシェア―
「トラ………会いたい」



何度目かも分からない言葉を、うわごとのようにつぶやいた、そのとき。




―――ふわ、とからだが温かくなった。



膝をかかえてうつむいていた私は、驚いて目をあげる。



肩にかけられたコートに気がついて、親切な人もいるものだ、と顔をあげた。




「…………ありがとうございます」



街灯の明かりを背に立っているのは、スーツ姿の男の人。


逆光なので、顔は見えない。



「でも、大丈夫なんで………これ、けっこうです」



私は軋む身体を無理やり動かして、ゆっくりと立ち上がり、肩にかけられたコートをかえそうとする。



「えらく他人行儀になっちゃったな」



その声を聞いて、私はぱっと視線を向ける。


そして、動けなくなった。



「………え」



口を開いたまま、目の前の姿を凝視する。



これは、幻だろうか。


あまりにも会いたいと願ったから、とうとう幻覚が見えるようになってしまったのか。




「なんだよ。ひさしぶりすぎて、顔わすれたとか、さみしいこと言うんじゃないだろうな?」



おかしさをこらえるように言う声。



聞き間違えるわけなんてない。




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