おふたり日和 ―同期と秘密のルームシェア―







長くなるから場所を変えよう、と言って、トラは私を連れて歩き出した。



入ったのは、深夜まで営業しているカフェバー。


一緒に暮らしていたころ、よく来ていた店だった。




身体が温まるからといって、赤ワインを頼んでから、トラはゆっくりと話し始めた。





「うちはああいう家だから、俺は生まれたときから、会社の跡継ぎとして育てられたんだ。


そのことにべつに不満はなかったよ。

親父のことは尊敬してたし、不動産の仕事にも興味があったし。

それに、たくさんの社員を守らないといけないと思うと、身が引き締まったから。


だから、将来的には会社を継ぐつもりで、ずっと勉強してた。


自分で選ぶ前に人生を決められてしまってるっていう気持ちは、なくもなかったけど………まあ、好きな仕事ならいいか、って思ってた。


ただ………」




ウェイターが持ってきたワインのグラスに口をつけてから、トラがすこし困ったように笑った。




「仕事だけじゃなくて結婚相手まで決められてしまったっていうのは、正直、どうかと思ったな」




五十鈴さんのことだ、と気づいて、どきっとする。




「あの子は、親父が仕事上の付き合いのある会社の社長の娘なんだ。

だから小さい頃からお互いに顔くらいは知ってた。

でも、もちろん、恋愛感情なんか少しもなかった。


それなのに、親父たちが勝手に、『お似合いだ』とかいう話で盛り上がったらしくて。

ある日突然、婚約が決まったからって」




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