おふたり日和 ―同期と秘密のルームシェア―
「けっこう、苦しかったな」




トラがすこし眉根を寄せて、ふっと息を吐きながら言った。




「苦しかった。

どんどん、うさのこと本気で好きになっちゃうし。

でも、どんなに好きなっても、婚約者がいると思うと、踏み出せないし。


しかも、うさは俺のこと、ぜんぜん好みじゃないなんて、豪語するし」




最後の一言は、トラは私を見つめながらにやりと笑って言った。



顔が熱くなって、思わずうつむいてしまう。


たしかにそんなこと言ってたな、私。


でも、いま思えば、そう自分に言い聞かせていたんだと思う。


トラのことを異性として意識してしまわないように。

好きになったりしてしまわないように。


だって、そうじゃないと、同居なんてできない。




「だから………親父が体調をくずしたって聞いたとき、最初は、これが潮時だなって覚悟したんだ。

もう、うさとの夢みたいなふたり暮らしは、終わりにすべきなんだって。


俺は俺の世界に戻らないといけないし、うさのことを束縛するのもやめようって」



「え? 束縛?」



「うん。うさは気づいてなかっただろうけど、俺はお前のこと、束縛してたんだよ。

うさが他の男のところに行かないように、なるべく居心地よくして、うさがうちから出たくなんかならないようにしようって」




トラはいたずらっぽく笑った。




< 186 / 190 >

この作品をシェア

pagetop