ヒロインになれない!
涙を拭いながら私は頭を下げた。
「いえ、大丈夫です。山崎先生、でしたよね?ありがとうございます。」
山崎医師は、私をじっと見て、ため息をついた。
「君、天花寺に似てるね。子供のくせに外面(そとづら)良すぎ。もっと泣き喚いていいんだよ。つらい目に遭ったんだから。寝てる時のほうが素直だったよ。」
あけすけな物言いに驚く。
「……礼儀正しいだけやと思いますけど……」
「礼儀、ね。いいよ、そんなもん。俺、もう勤務時間終わったから。」
そういえば、白衣じゃない。
「じゃ、山崎さん?……寝てる時って?全く記憶がないんですけど、何か口走ってましたか?」
私の質問に、山崎医師は、ちらっと恭兄さまを見た。
「……俺より、天花寺に聞けばいい。君が暴れる度に身を挺して宥めてたよ。君が泣いてたら一緒に泣いてた。ずっと君の心に寄り添ってたから、あんな風になってしまった。」
あんな風……。
「正直、目覚めた君があまりにも冷静で驚いたよ。逆に心配なぐらいだ。身体以上に心が傷ついてるはずなのに、精神力で抑えているとしたら……」
山崎医師は頭を振った。
「いや、今はよそうか。俺が、本当の意味で君の主治医にならないように祈ってる。」
……山崎医師は、精神科医?てことかな?
「あの……PTSD、パニック症候群、鬱病……あたりがヤバいかな、って自分で思ってるんですけど、他にもどんな精神疾患症状が出る可能性があるんですか?」
「普通、自分でヤバいって思ってる人は大丈夫なんだけどね。」
山崎医師が苦笑した。
「変なお嬢さんだな。天花寺が惚れるわけだ。……そうだな、自傷行為、依存症、それから他人に対する攻撃……。」
私は、息を飲み込んだ。
やっぱりヤバいやん。
「……復讐も入りますか?」
けっこうガッツリ踏みにじったり蹴ったりしてきたけど……あれも……?
「……この場合は、復讐じゃなくて反撃、でいいんじゃない?正当防衛ってことで。」
山崎医師の言葉に、私はハッとした。
知ってる?
この人は、私が彼奴等(きゃつら)に何をしたかまで、わかってる?
ドキドキしてると、山崎医師の視線が私を通り越した。
恭兄さまが起きたらしい。
「天花寺(てんげいじ)、起きたか。いいもん持ってきたぞ。食え。」
山崎医師がそう言って持っていた袋から取り出したのは、黄色い……とうもろこし?
「とうきび!」
恭兄さまの声が弾んだ。
……とうきびって、とうもろこしのことよね……。
山崎医師は、恭兄さまの簡易ベッド脇の椅子に座ると、とうもろこしのパッケージを開けて、一粒一粒プチプチと取って、恭兄さまの口に運んだ。
なに?
なんで、食べさせてあげるの?
2人が私の左側にいるので、会話が聞き取れない。
私は身体を捻って、右耳を2人に向けた。
「あの……自分で……食べますよ……」
もぐもぐと口を動かしながら、恭兄さまがそう主張しているが、山崎医師は
「お前、ただでさえ不器用なのに、点滴入ってるじゃん。このほうが早い。」
と、平然ととうもろこしを一粒ずつ恭兄さまの口に入れる。
……ちょっと……2人、できてるんじゃない?って疑いたくなるような……この雰囲気は……。
腐女子の域ではないと思うけど、文学少女の知織ちゃんと仲良くなって以来、「男色は貴族の嗜(たしな)みよね~!」なんて、盛り上がることもあるぐらい興味津々ではあるのだが……相手によりけり、というか……。
いや、恭兄さまなんか、元華族で全寮制の男子校にいたんだから、設定ドンピシャなんだけどさ。
でも一応、私の……私の……私の…………
私の、「好きな人」と、実はとっくに認識してることをやっと自覚したばかりの私は、何とも複雑な気持ちで2人を見ていた。
「いえ、大丈夫です。山崎先生、でしたよね?ありがとうございます。」
山崎医師は、私をじっと見て、ため息をついた。
「君、天花寺に似てるね。子供のくせに外面(そとづら)良すぎ。もっと泣き喚いていいんだよ。つらい目に遭ったんだから。寝てる時のほうが素直だったよ。」
あけすけな物言いに驚く。
「……礼儀正しいだけやと思いますけど……」
「礼儀、ね。いいよ、そんなもん。俺、もう勤務時間終わったから。」
そういえば、白衣じゃない。
「じゃ、山崎さん?……寝てる時って?全く記憶がないんですけど、何か口走ってましたか?」
私の質問に、山崎医師は、ちらっと恭兄さまを見た。
「……俺より、天花寺に聞けばいい。君が暴れる度に身を挺して宥めてたよ。君が泣いてたら一緒に泣いてた。ずっと君の心に寄り添ってたから、あんな風になってしまった。」
あんな風……。
「正直、目覚めた君があまりにも冷静で驚いたよ。逆に心配なぐらいだ。身体以上に心が傷ついてるはずなのに、精神力で抑えているとしたら……」
山崎医師は頭を振った。
「いや、今はよそうか。俺が、本当の意味で君の主治医にならないように祈ってる。」
……山崎医師は、精神科医?てことかな?
「あの……PTSD、パニック症候群、鬱病……あたりがヤバいかな、って自分で思ってるんですけど、他にもどんな精神疾患症状が出る可能性があるんですか?」
「普通、自分でヤバいって思ってる人は大丈夫なんだけどね。」
山崎医師が苦笑した。
「変なお嬢さんだな。天花寺が惚れるわけだ。……そうだな、自傷行為、依存症、それから他人に対する攻撃……。」
私は、息を飲み込んだ。
やっぱりヤバいやん。
「……復讐も入りますか?」
けっこうガッツリ踏みにじったり蹴ったりしてきたけど……あれも……?
「……この場合は、復讐じゃなくて反撃、でいいんじゃない?正当防衛ってことで。」
山崎医師の言葉に、私はハッとした。
知ってる?
この人は、私が彼奴等(きゃつら)に何をしたかまで、わかってる?
ドキドキしてると、山崎医師の視線が私を通り越した。
恭兄さまが起きたらしい。
「天花寺(てんげいじ)、起きたか。いいもん持ってきたぞ。食え。」
山崎医師がそう言って持っていた袋から取り出したのは、黄色い……とうもろこし?
「とうきび!」
恭兄さまの声が弾んだ。
……とうきびって、とうもろこしのことよね……。
山崎医師は、恭兄さまの簡易ベッド脇の椅子に座ると、とうもろこしのパッケージを開けて、一粒一粒プチプチと取って、恭兄さまの口に運んだ。
なに?
なんで、食べさせてあげるの?
2人が私の左側にいるので、会話が聞き取れない。
私は身体を捻って、右耳を2人に向けた。
「あの……自分で……食べますよ……」
もぐもぐと口を動かしながら、恭兄さまがそう主張しているが、山崎医師は
「お前、ただでさえ不器用なのに、点滴入ってるじゃん。このほうが早い。」
と、平然ととうもろこしを一粒ずつ恭兄さまの口に入れる。
……ちょっと……2人、できてるんじゃない?って疑いたくなるような……この雰囲気は……。
腐女子の域ではないと思うけど、文学少女の知織ちゃんと仲良くなって以来、「男色は貴族の嗜(たしな)みよね~!」なんて、盛り上がることもあるぐらい興味津々ではあるのだが……相手によりけり、というか……。
いや、恭兄さまなんか、元華族で全寮制の男子校にいたんだから、設定ドンピシャなんだけどさ。
でも一応、私の……私の……私の…………
私の、「好きな人」と、実はとっくに認識してることをやっと自覚したばかりの私は、何とも複雑な気持ちで2人を見ていた。