草食御曹司の恋

机に突っ伏したままだった俺を、戻ってきた博之は「邪魔だ、今すぐ帰れ」と研究室から追い出した。

当たり前だ。
神聖な仕事場でめそめそと失恋で落ち込んでいるような奴など、邪魔者以外の何者でもない。

それでも、博之はすぐには追い返さなかっただけ紳士的だった。
俺が逆の立場なら、おそらく即刻オフィスから追い払うに違いない。

博之は高校時代の同級生で、二人ともロボット研究会に所属し、当時はロボット製作に共に熱を上げていた。そして、同じ大学の同じ学部さらには大学院へと進んだ。まさに、青春の全てを共にした仲である。
修士課程卒業後、クマザワに入社した俺とは違い、博之は博士課程へと進み博士号を取得、その後母校の研究室に助教として就職した。

俺が思い描いていた通りの未来を手にした友人への嫉妬はあるものの、研究に没頭し成果を挙げていく友人を俺は素直に尊敬している。
そして、クマザワは数年前から博之の所属する研究室と共同研究を実施していて、その研究の双方の責任者は博之と俺ということになっている。つまりは、博之は大事な仕事上のパートナーでもあるのだ。
研究のこと以外はどうでもいいと言い切っていても(特に女の扱いはヒドいらしい)、本当は真面目で面倒見の良い性格であることは、長い付き合いで知っている。

だから、心の底から俺は博之が大学の教員に向いていると思っているし、ついつい不毛な悩みでさえも彼の元に打ち明けに来てしまうのだ。

大学の門を出て、幹線道路でタクシーを拾う。会社までと告げようとしたところで、脳裏に彼女の笑顔が浮かんで言い淀んだ。
怪訝な表情を浮かべる運転手に、軽く頭を下げてから実家の住所を告げた。

たまには、実家に顔でも出すか。
溜息交じりにシートに体を沈めながら、窓の外をぼんやりと眺める。
急ぎでないものの、やるべき仕事は山ほどある。でも、会社には行く気分にならない。かといって、一人になると悶々とした悩みなら抜け出せそうになかった。
彼女が会社を辞めてからもう数ヶ月が経とうというのに、この様だ。仕事は何とかこなしているが、彼女が来る前の状態に逆戻り。部下はやりづらそうにしているし、俺はとても新機種の構想を練る時間など作れそうにない。
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