草食御曹司の恋

小さい頃から、女だからという理由で甘やかされたことはなかった。
母は常々言っていたのだ。

『女の子だからって、甘えちゃダメよ。ちゃんと自分の力で生きてゆけるようにならなくちゃ』

何でも、社長令嬢として生まれ、将来政略結婚すること以外を特に望まれないまま、何事も甘やかされて育ったらしい母は、そのことを大人になってから激しく後悔したのだという。
生活能力もなく、親の言われるがまま見合い話を受けるしかなかった母は、密かに恋心を抱いていた父(当時は母の父、私の祖父の秘書をしていた)と一緒になることを諦めなくてはならなかったからだ。

しかし、結果的には母の粘りと、祖父の心変わりにより、二人はめでたく結ばれることになった。
時を同じくして、祖父の跡を継ぐ予定の母の兄、私から見れば伯父にあたる、矢島物産の現社長・矢島雅彦(やじままさひこ)が生涯独身を貫くことを宣言をしたためであった。
急遽、息子の跡を継ぐ身内が必要となった祖父は母と父の結婚を認め、父は矢島家の婿養子となり、私と弟の聡輔(そうすけ)が生まれたのだ。

しかし、母の後悔は消えることなく、子育てをするにあたっての重要な指針になったようだ。
女である私にも、将来自らも活躍できるようにと英才教育を施し、大学卒業後に就職してキャリアを積むことを応援してくれた母。私が幼い頃から憧れていた伯父の元で働きたいと、矢島物産に就職を決めた時も特に反対しなかったのに。

そんな母から、突然お見合いをしろと言われた時の衝撃と言ったら、天地がひっくり返ったのかと思ったほどだ。
そして、追い打ちを掛けるような伯父の退職の勧めに、完全に私は自信を失うことになる。


たとえ、ここに来て母が急に方針転換しようとも。
伯父がどんなに私の幸せを願ってくれたのだとしても。

私にだって、簡単に曲げられないものがあるのだ。
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