【完】君の指先が触れる度、泣き出しそうな程心が叫ぶ
タクに借りたスウェット生地のズボンのポケットに突っ込んでいた、雨のせいで文字化けした『なんでもお願い券』は、私の掌の力でもうくしゃくしゃ。


タクは表しようも無いくらい切ない表情で私を見つめ、その掌の中のくしゃくしゃの紙切れを取り出した。


「これが美姫の『お願い』なんですか……?君が僕にしたい、お願い?」


タクのそんな問い掛けは、静かな部屋に淋しく響く。まるで迷子が必死に行き場を探すような声。


こく、と頷いた私に、タクはふっと長い睫毛を瞼と共に下げた。


その表情には、どんな気持ちが篭っているのだろうか。否定なのか、悲しみなのか、裏切られた気持ちなのか。


「……君はそれで後悔しませんか?君の心は傷付きませんか?」


「後悔なんてしません……身体の関係でいい。世間に言う『セフレ』でも構わない。タクの大切な人の変わり身でも良いの」


ねえ、タク。どうして私が言葉を発する度に、苦しそうな顔をするの?


聞きたいけど、聞けない。聞いちゃいけない気がした。


タクは銀のフレームの眼鏡を外して机の上に置く。その動きはほんの数秒だったのにスローモーションで、切ない。


「それが君の、美姫の望むことなら僕には従う義務がある。……本当に良いのですね?」


タクの深みのある声に、返事の代わりに一筋の涙で答える。


その生暖かい涙を、タクは指ではなく、今度は舌で拭った。


それが合図。私達は更なる深みへ導かれた。
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