【完】君の指先が触れる度、泣き出しそうな程心が叫ぶ
海へ着くと、冬の砂浜に、見る度に細い線になって行く彼女の後ろ姿があった。


声をかけてしまうのが勿体ないくらいに美しい彼女に、思わず喉が詰まる。でも、声をかけなきゃ、今すぐ消えてしまいそう。


「み、き……」


僕が躊躇いがちに声をかけると、ゆっくり振り返る美姫。


ふわりと風に靡く、指通りの良い黒髪。僕の硬い髪の毛とは全然違うから、何度もわざと指を通してしまったね。


そして、きっと泣いた後の赤い、少し垂れ目の双眼。彼女の大人び過ぎた印象を和らげる、唯一無二のパーツ。


美姫自身はきっと気付いていないだろうけど、彼女は美しい。まるで、この世の物では無い幻のように儚く、脆い立ち姿は、時に心を大きく揺すぶられる。


ぱっと目立つ派手な顔じゃなければ、周りの目を引き付けるそんな容姿ではないけれど、美姫の持つ独特な儚さが、彼女全体を美しく魅せるのだと思う。


冬の海の中に溶けて消えてしまいそうな君を、失わないように抱き締めて、閉じ込めてしまいたい。


勝手なエゴだけれど、我が儘かもしれないけれど、僕は初めて見たその日から、夢に見る程に君に強く、そういった感情を抱いていた。


その想いは、知れば知る程膨張して手に負えない。君を抱いた時に、それが叶ったと何度も錯覚し、勝手な満足感すら覚えていた。


ほら、僕は君が思うより汚い人間だろう?
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