【完】君の指先が触れる度、泣き出しそうな程心が叫ぶ
その小さな唇で、キスをすると熱で溶けてしまいそうな唇で、美姫は言葉を造り出す。


「すみません……私にはタクに電話をかける勇気がなくて、そしたら、蒼次郎が」


「そうでしたか。ところで、その蒼次郎君は?一緒にいたのでしょう?」


僕が美姫に近づきながら尋ねると、美姫は僕に今まで見せたことのないような、真っ直ぐな眼差しを向けた。


いつもフィルターをかけたような、それはそれで美しいくすんだ瞳だったのに、美姫の瞳は真っ直ぐ僕だけを射抜く。


その強く光る眼光に、僕は妙に美姫の色っぽさを感じ、心臓がドクドクと動き出す。声にならない。君しか、見えない。


「私、蒼次郎とは別れました。このままじゃいけないって、母とのことで思ったので。蒼次郎に全部話して、ちゃんと終わらせました」


美姫の言葉が、今までにないくらいに重く重く伸し掛る。


いつも子供ながらに鋭く重たい言葉を操っていた美姫だけれど、今日のそれはいつものそういう物とは違う。比べ物にならないくらい、僕を鎖で縛り付ける。


彼女の強い眼差しは、今、誰よりも真っ直ぐに僕を照らした。


一人ぼっちの美しい幻なんかじゃ無くなった美姫は、その美しいラインの背中に純白の羽根を生やし、あっという間に僕の前から飛び立って行きそう。


嫌だ、行かせたくない。離したくないのに。
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