【完】君の指先が触れる度、泣き出しそうな程心が叫ぶ
「私を変えてくれたのは紛れも無くタクで。だからこそ、私はタクにちゃんと言わなきゃいけないことがあります」


そんな風に言ってもらえる資格は無い。僕は全ての行動が君の為だった訳ではないのに。


それでも、美姫の二つの瞳に捕らえられ、僕は波と、自分の心臓の音だけに包まれる感覚に陥る。


聞きたくない、耳を塞ぎたい事のような気がするのに、止めてという言葉は出せない。


美姫は呼吸を整えると、ゆっくりとした口調で言った。


「私は、タクが、歌川卓司さんが好きです。何度も言ったしとっくに知っているとは思うけれど、だけど、伝えなきゃ、と思います」


嬉しいのに、その先が聞きたくない。幸せな言葉など紡がれないのは、君の瞳を見れば分かるから。


「……でも、私が貴方と共に歩む事が出来ないのは重々承知です。だから」


ああこれ以上言葉を紡がないで。僕を闇の糸と想いの鎖で縛らないで。


「だから、さようなら。迷惑かけるかもしれませんけど、バイトも辞めます。もうタクに頼らず、私は私の人生を歩きます」


願いは虚しく海に吸い込まれ、はっきり、きっぱり僕に伝えた美姫。


美姫は最後、数える程しか見せてくれなかった本物の、輝くような笑顔を向けて僕に背を向けた。
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