【完】君の指先が触れる度、泣き出しそうな程心が叫ぶ
タクと本社に戻り、受付に監査した資料を渡して、私の初めてのアルバイトが終わる。


「こんな事だけでお金をもらってもいいんでしょうか?」


「いいんですよ。僕は仕事が減ったおかげでだいぶ楽ですし。助かります」


タクは嬉しそうに笑うと、少し下がっていた銀フレームの眼鏡を押し上げる。


そんな仕草でさえスマートに見えるのは、やはりタクが美形であるからだと思えた。


「さ、お姫様を家までお送りしましょうか。車に乗って下さい」


タクはクセの強いウェーブした前髪を左手でかき上げると、出入口の方へ歩き出した。


あんな顔、狡い。あんな整い過ぎた顔がくしゃくしゃに笑って、優しい眼差しが私の方を向くなんて、そんなの残酷だ。


恋をしてしまっていると気付いたのに、彼に対しての気持ちを私はさらけ出せない。なのに、あんな顔で、あんな甘く柔らかな声で、どうか私を見ないで、呼ばないで。


それが、私だけに向ける顔じゃないなら尚更残酷だから。
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