【完】君の指先が触れる度、泣き出しそうな程心が叫ぶ
私は証拠に残る悪い事はしていない。だから、本当の事を言えば良いのに。だけど、私の気持ちはタクに向いているから、蒼次郎怒られるのは当たり前。私は受け入れるしかない。


「何黙ってんだよ。言い訳も出て来ないの?」


「ち、がうよ。その人は、私の知り合いで……その、バイト先の社長さんの秘書、で……!」


何て言っていいのか分からない私はちぐはぐに言葉を紡ぐ。言い訳する資格が無くても、この場だけでも事実を伝えなくてはと必死に。


ただ、言い訳は最後まで言わせてもらえず、右手首を掴まれ、壁に押さえ付けられた。


手首に込められた力は振り解ける物では無い。その力と共に、蒼次郎の苛立ちや不安や怒りがダイレクトに伝わる。


「痛いよそうじろ……」


「抱かせろ。本当にこの男とやましいことがなかったら今すぐヤらせろよ!全部を差し出せこのクソ女!」


壁に押さえ付けられ、背中と後頭部が痛い。でも、振りほどく事が出来ない。


私は、きっと惣次郎に抱かれるべきなんだ。ここで拒否してしまっては、私の築き上げた嘘の理想京は崩れてしまう。


「……分かった。良いよ。それで蒼次郎が納得するのなら」


恐怖と覚悟を宿した瞳を蒼次郎に向けると、蒼次郎は私を教室から強引に連れ出した。


掴まれた右腕が痛い。でもそれよりずっと、心が……痛いよ。
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