【完】君の指先が触れる度、泣き出しそうな程心が叫ぶ
「……表情です、かね。君自身は感情を表に出さないタイプですが、だからこそ辛いことがあると微妙な変化があるのですよ。僕にはそれが分かってしまう」


タクは自分で持っていたらしい携帯灰皿に煙草を押し付けると、再び目線を私に戻す。


本当に鋭く、狡い人だ、と心底思う。そんな風に真っ直ぐ見られると、私の心の鎖が切れてしまいそうになってしまう。


だけど……我慢。今は我慢しなきゃ。こんな気持ちまでさらけ出せないから、私は上手く仮面を被らなきゃ。


眉を下げてタクに微笑む。ああ良かった。いつも周りに上手く偽りの表情を作っていて。


「別に。ただ、いい子ぶるのに疲れて授業を抜け出しただ……!?」


けれども、私は最後まで言葉を言う前に、息を詰まらせてしまう。


眼前には灰色のネクタイと薄い水色のワイシャツ。鼻を掠めるのは太陽みたいな温かい香り。


私……タクに抱き締められている。温もりが、ゆったりした心音が、男の人の硬い身体の感触がダイレクトに私に伝わる。
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