【完】君の指先が触れる度、泣き出しそうな程心が叫ぶ
タクはよほど急いで来てくれたのだろう。十分もしないうちにやって来た。


いつもきっちりしているスーツはよれて、眼鏡に雨が滴るのも気にしないで、高そうな靴に泥が跳ねるのも無視して、一目散に私に駆け寄ってくれる。


「すみません……我が儘言っているのは分かっているんです。タクが忙しい事も」


「良いんですよ。仕事は明日にでもやれる事務処理だったんですから。それより君の事の方が余程僕には重要だ」


タクはそう言いながら傘を私に差し出し、私に着ていた背広を羽織らせた。


「さて、どこに行きましょうかね。なんだか僕、女子高生を誘拐してるみたいで変態さんになった気分です。どうしましょう?」


きっと私を笑わせようとしているのだろう。タクはそんな冗談を言いながら私を自分の車に導いた。


何て優しい人を振り回してしまったのだろうという後悔と、それ以上にタクの時間を独り占めしている事実に喜ぶ気持ちが波のように押し寄せる。


ああ何で、こんな時まで私は汚らしいんだ。
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