俺様当主の花嫁教育
どこまでも意地悪くそう言い捨てて、御影さんは踵を返す動作すら優雅に私に背を向けた。
そして、周囲の女性の視線を一身に浴びながら、美しい庭園を歩いて行ってしまった。


置き去りにされた私は、ただ呆然と立ち尽くした。
言い返せなかった悔しさと、どこまでもバカにされた屈辱が漲っていたけど……。
御影さんの言う通り、ネットの付け焼刃の知識だけでどれだけ乗り切れるものか、判断も出来ない。


それまで黙って話を聞いていた千歳さんが、ふむ、と呟きながら頷いた。


「……志麻ちゃん。我が弟ながら最低な男だと思うけど、残念ながら言ってることは一理あるわ」


静かに宥めるようにそう言われて、私は黙ったまま千歳さんを振り返った。


「説明した通り、あれで東和は名高い茶道家なのよ。お教室も相当高い月謝とってるのに、新入門はキャンセル待ちだし。まあ、酔った勢いの口約束にしても、東和がやる気のない一般市民に直々に稽古つけたりするのは、時間の無駄だし無益なのよね」

「……う……」


それは、悔しいけれど私も認める。
だからこそ、御影さんは私にも『そこまで本気じゃない』と逃げる選択肢を与えたってことだ。


私はこのまま何もせずに帰ってもいい。
御影さんと連絡をすることもこれでなくなるし、ごく普通の毎日を送ることが出来る。


そして来年の年明けに、西郷さんとエリカちゃんの結婚式に着物を着て出席すればいい。
ほんの少しでも西郷さんの表情が変わる瞬間を確認出来れば……確かにそれだけなら、難しいことじゃないかもしれない。
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