俺様当主の花嫁教育
小さな溜め息と共に、私の目線に薄い紅色の襦袢が差し出された。
それを引っ掴んでから、今度こそ大きく御影さんに背を向ける。


「こ、こっち見ないでください」

「……はいはい」


わずかな衣擦れの音が耳に届く。
そっと肩越しに振り返ると、御影さんは美しく正座して私に背を向けていた。
それを確認して、急いで服を脱ぐ。


脱いだ服を畳に落とす音すら聞かせたくない。
それでも、丁寧に畳んでおくほどの余裕はなくて、私は下着の上から急いで襦袢を羽織って袖を通した。
腰紐を縛って、少しだけホッとする。
御影さんと向かい合うのは、どうしようもなく恥ずかしい。
けれど、着物でいうところの下着姿の襦袢のまま、佇んでいるのも心許ない。


「あ、あの」


思い切って声をかけると、御影さんが私の方を振り返る気配がした。


「こっち向け」


短く命令されて、私は半分ヤケでくるっと身体ごと向き直った。
無意識にギュッと閉じていた目を開けると、私の正面で膝立ちになっていた御影さんが、心底から呆れた顔をして私をジッと見上げていた。
そして。


「……志麻、お前、死人か?」


右膝を立てて立ち上がりながら、そんなことを言う。


「え?」

「袷。右が上になってる。浴衣くらい着たことあるだろうが」
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