俺様当主の花嫁教育
「私、実はずっと前から憧れてたんです」

「え……?」


フィアンセとのデート中なのに、御影さんに見惚れてたりしたの?
プライドで武装固めしてる西郷さんが気付いたら、一瞬にして不機嫌になりそうだ。


他人事なのに、割と気が気じゃない。
そんな怪訝さが伝わったのか、エリカちゃんは慌てて顔の前で手を振った。


「あ、いえいえ、憧れって、そう言うんじゃないんです! 私も子供の頃からお茶をやっていたので、御影さんのファンみたいなもので」

「あ、ああ……そうなんだ?」


ちょっと頬が引き攣るのを感じながらも、私は納得してそう返事をした。


そうだ。確かそう聞いてる。
エリカちゃんの趣味はお茶やお花で、まさに西郷さんの好みどストライクの大和撫子。
お茶をたしなむからには、そりゃあ御影さんのことも知っていて当然だ。


「あの……もしかして、恋人ですか?」


躊躇いがちな静かな声だけど、エリカちゃんは割とグイグイ質問を畳みかけて来る。
その質問にギョッとしながらも、ハハ、と乾いた笑い声を上げた。


「まさか。え~っと……ちょっとした知り合い」


『ちょっとした』かどうかは置いておいて、ただの知り合いというのは嘘ではない。
それ以上ツッコまれると返答に困りそうだな、と思ったから、私は今度こそポーチを片手に洗面台の前から離れた。


「お先に」

「あ……はい」


短い断りの言葉を告げて、エリカちゃんに背を向けてトイレから出る。
なんとなく、エリカちゃんからもっと話したそうな空気を感じたけれど、私は気にせず午後の仕事に戻った。
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