俺様当主の花嫁教育
「は? 俺が二股? 何言ってんの。俺たちはお互いかりそめの遊びだろ?」

「……え?」

「志麻、出会ったその夜に誘いに乗ったじゃん。誰にでもヤらせる尻軽女に、俺が本気になるわけないだろ」

「っ……!!」


一瞬、頭の中が真っ白になった。
反射的に振り上げかけた手を、必死の思いで抑え込む。


悔しい。この人は半年の間私のことをそう思っていたんだ。
だけど、西郷さんの酷い言い草も、間違ってるわけじゃない。
そう思われても仕方がない、そういう始まり方だったことは、否定出来ないのだから。


俯いて、ギュッと唇を噛む。
左手で抑え込んだ右手が、プルプルと震える。
それでも感情的になってしまうのはあまりに惨めで、私はただ無言を貫いてやり過ごそうとした。


「先週見たんだよ。お前が御影東和と歌舞伎座にいるの。ほんと、簡単な女だなって呆れただけだけど」


……ああ、そうか。
エリカちゃんだけじゃなく、西郷さんにも気づかれていたのか。
考えてみれば、当然だったかもしれない。


「でもまあ、遊び人同士でお似合いか。正直、完全に切るのも可哀想かなって思ってたけど、変な罪悪感とかも全くなくなったよ」


目をギラギラさせながら、やけに語尾を伸ばした嫌らしい話し方をする粘っこい声。
とても耳障りで、私は思いっきり顔を背けたまま、無言を貫いた。


そうしているうちに、エレベーターが地上階に着いて、再びドアが開くのを確認した。


「どいてください」


この瞬間を待ちかねた思いで、私は西郷さんの横をサッと擦り抜けた。
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