俺様当主の花嫁教育
惨めだ。ほんと、惨めだ。
エリカちゃんがいい子だから、怒りの捌け口すら見出せない。


「まあ、とりあえず全く悪気のない後輩から略奪しようなんて、思わないでよ」


由香が涼しい顔して言った言葉に、私はガバッと身体を起こした。


「ちょっと由香! いくらなんでも、私そこまで腐ってないっ!!」


それはさすがに私という人間を低く見過ぎだ。
悪いのは当たり前の顔して女を品定めした西郷さんで、何も知らずに幸せになるエリカちゃんではないのだから。


「私はっ……西郷さんをやっつけてやりたいだけでっ……」

「……じゃあ、見返してやれば?」


由香に食って掛かった私に、そんな冷めた一言が浴びせられた。
思わず口を噤んで視線を横に向けると、カウンターの並びに私と二つ席を空けて座っている男の人が、頬杖をついて横目を私に向けていた。


「なっ……」


見ず知らずの人に、こんな屈辱的な話を聞かれていた。
それだけでも逃げ出したくなる。


「言っとくけど、別に聞こうと思って聞いたんじゃない。それだけドでかい声で恥も外聞もなく騒ぎ立てれば、この距離じゃ嫌でも耳に入るってもんだ」


私が言葉を繋ぐ前に、彼がそう続けてフイッと顔をこっちに向けた。
そしてその途端、私の胸が一瞬大きく大きく轟いた気がした。


「うわ……すっごい美形」


私の背中で由香が小声で称賛するのが聞こえる。
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