俺様当主の花嫁教育
リムジンの広い後部座席で、私と御影さんは微妙に間隔を保って黙り込んで座っていた。
長い足を組んで腕組みをして、御影さんは私には視線を向けないまま。


様子を窺わなくても、不機嫌なのはわかる。
私の方から謝らなきゃ、と思っていたけど、なんと言えばいいのかわからなかった。


話しかけるタイミングを図りながら御影さんの横顔を窺っているうちに、私は彼の見慣れないスーツ姿にドキドキしてしまう。


最初に会った時はラフな私服姿だったけど、それ以外で会う時、御影さんはいつも和装だった。
今日のスーツはどう思い起こしても初見だ。


質の良さのわかるブラックスーツにベージュのネクタイ。
センスはいいけど意外に保守的。
それはそれでシックで、いつもと違った色気を漂わせる御影さんに、ドキドキしてしまう。


都会の大通りを走るリムジンが、何度か信号に捕まって停車する。
その何回目かの停車のタイミングで、私は膝の上で手を握りしめた。


思い切って『御影さん』と呼びかける。
彼が目線だけを私に向けたのが感じられた。


「……すみませんでした」


掠れた声を出してみると、申し訳なさが強まっていく。
膝の上に置いた手が、かすかに震えた。


「なんでお前が謝る?」

「だって……西郷さんがあんな……」


西郷さんの暴言が頭を過って、悔しさが募る。
俯いたままで声を消え入らせると、鼻の奥の方がツンとした。
なのに御影さんはまったく気にした様子もなく、ああ、と短い相槌を打った。
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