俺様当主の花嫁教育
小さな茶室に置かれた窯から、シュンシュンと湯が沸く音がする。
静謐な空気の中、私は小刻みな手の震えを必死に誤魔化しながら、両手を畳みに着いてにじり出る。
柄杓を手に取ってピンと腕を伸ばして窯の湯を掬った。


お茶を振る舞うべき『お客人』のはずの御影さんが、腕組みして私に鋭い視線を向けている。
ただでさえ緊張するのに、身体にまとわりつくような御影さんの視線。
その上、私は千歳さんの言葉ばかりを考えてしまって、全然お点前に集中出来ない。


御影さんが直々に茶道を教えてくれたのは、もう一ヵ月以上前のことだ。
最初は御影さんの所作をさらうだけだったけど、二度目は倣うことが出来た。
その次からは私が御影さんにお点前をさせてもらえるようになって、今夜は三度目のお点前だ。


この間は『悪くない』と言ってもらえた。
今夜は美味しいとは言わせられなくても、『いいんじゃないか?』くらいは言わせたい。
意気込みだけは毎回上昇思考なのだけれど……。


「……まずっ」


私が点てたお茶を一口含んですぐ、御影さんは眉間に深い皺を刻み込んだ。
その短い評価に、私はガクッとこうべを垂れる。


「理由は自分でわかってるんじゃないのか?」


それ以上は飲む気もないらしく、御影さんは優雅な動作で茶碗を戻した。
そして涼しい瞳を横に動かして私を見つめた。


「……はい」


頭が上げられない。
全然集中していなかったことを、見透かされているのだから。
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