俺様当主の花嫁教育
集中出来ない理由を言わせようとはせず、御影さんは私を見つめたままで無言を通した。
ダメだ。視線を感じるだけでドキドキしてしまう。
この間千歳さんから意味深なことを言われたせいで、私はあれから御影さんの顔をまっすぐ見られない。


御影さんの視線から逃れるように、私は目を逸らしたまま身体を縮込めた。
とても姿勢を保っていられない。
こんなんじゃ、着物美人にも程遠い。


「……すみません。今日は……」


帰ります、と続けようとした。
集中力を欠いている私じゃ、無駄な時間を使わせてしまうだけだ。


なのに、全てを言い切る前に、御影さんが音もなく立ち上がる気配を感じた。
つられるように顔を上げた時には、御影さんは私の背後に歩み寄って来ていた。
そして。


「最初から。柄杓持て」


短い言葉で命令したかと思うと、私の真後ろに膝立ちになった。


「っ……!!」


後ろから両手を取られた。
二人羽織の体勢で、御影さんが私の手を使ってお点前をしようとしてるのがわかった。


「ちょっ……、御影さ……!」

「いいか? 俺の動きを感じて覚えろ」


そんな無茶な!!
心の叫びは喉の奥の方で引っかかって、声にもならない。


黙る私を確認してから、御影さんは柄杓を持った私の右手を誘うように窯に伸ばしていく。
自然と前のめりになる体勢で、御影さんの胸が後頭部に当たるのを感じた。
それだけで取り繕えないくらい心臓が高鳴って、身体の小さな震えが抑えられなくなる。


どうしよう。
こんなの絶対気付かれてしまう……。
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