俺様当主の花嫁教育
「っ……、あっ!!」


湯を掬った途端、力の入らない右手から柄杓が落ちた。
窯に当たってカランと音を立てた後、湯が畳に零れて広がってしまう。
惨事を最小限でとどめようと、九十度近いお湯溜りに、私は手を伸ばしていた。


「なっ、バカっ……」

「熱っ……!」


御影さんの手に力が籠った時には、私はギュッと目を瞑っていた。
囲うように手の平を畳に立てたせいか、小指側の側面がジンジンと痛む。


「バカか、見せてみろっ」

「す、すみません。大丈夫だから……」


何か拭くものを、と伏せた目で畳の上を探そうとした。
その時。


右手をグイッと持ち上げられた。
顔の高さで外側に捻られた自分の右手の行方を目で追う。
途端に、振り返った肩越し、すぐ目の前に、御影さんの綺麗な顔を見つけてしまった。


「……え……」


軽く伏せられた目。
意外と睫毛が長いのを確認出来てしまうくらい近すぎる位置で、御影さんは小さく舌打ちした。
小さな息遣いさえ感じて、ドクンと大きく胸が鳴った。


そんな私の反応には気付かず、御影さんは私を強引に立ち上がらせると、大股で茶室を横切って対の間にある水屋に引っ張り込んだ。
御影さんの背中に遮られて見えないけれど、ザーッと勢いある水音が聞こえる。
< 84 / 113 >

この作品をシェア

pagetop