俺様当主の花嫁教育
「そこのビルの西郷建材の社員?」

「え?」


サラッと言い当てられて、一瞬ギクッとする。
だけど彼はすぐに種明かしするように、顎で私のバッグをしゃくって見せた。


つられて目を向けると、空いた席に置いたバッグの一番上に、入館証に使う社員IDカードが丸見えになっている。
私は慌ててバッグを抱え込んだ。
そんな私の様子を見て、彼はフッと意地悪に口元を歪めた。


「いくら飲んでるとはいえ、社名晒して大声で話せる話題じゃないよな。あんた、バカ?」

「うっ……」


本当、いちいち彼の言う通りだ。
予想すら出来なかったありえない失恋に冷静さを欠いていたとは言っても、オフィスのすぐ目の前の居酒屋で、大声でする話じゃなかった。
私は無意識に背を仰け反らせて、彼の視線を交わそうとする。
ドクドク打ち続ける鼓動が、まるで早鐘のようだ。


無視するに限る。
店内の他の客から見れば、しつこいナンパをひたすら無視するOLにしか見えないはず。
だから私は彼に完全に横顔を向けて、しっかりと前を向いた。


なのに……。


「怒りのやり場は、男にしかないだろ」


相手にしないつもりだったのに、彼のそんな言葉に肩がピクッと震えて反応してしまう。


「着物が似合わないのが振られる理由だったなら、似合う女になって結婚式に出席してやればいい。花嫁とあんたはせいぜい似たり寄ったりの見た目なんだろ? そのくだらない男の目を一瞬にして惹き付けて、今度はあんたから『あんたなんか目じゃないわよ』って態度取ってやればいい」
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