俺様当主の花嫁教育
「西郷の婚約者なんかじゃ全然期待出来んと思ってたが。……まあ、確かにな」


薄く微笑みながら、エリカちゃんを思い起こすように目を細める御影さんに、身体が凍り付く思いだった。
彼が素直に人を褒めるのを、私は聞いたことがない。
私だってこの人の賛辞をまだ引き出せていないのに。


「昔から日本文化に親しんだだけのことはある。美人じゃないし目立たないけど、気品があって優雅だ。西郷の嫁になるのがもったいないくらいだ」


その上、そんな高評価をスラスラと口にする。
それを聞いて、私の中で何かが音を立ててブツッと切れた。


「……どうせ私は……」

「え?」

「西郷さんにバカにされて、御影さんにも認めてもらえない。着物美人にも程遠い女ですよっ」


可愛くないとわかっていても、理性が弾け飛んだら、劣等感が限界を越えた。


「志麻?」


突然怒り出す私に、御影さんも驚いている。


「私には無理なんです。今日それが痛いほどわかりました」


肩を怒らせて、くるっと御影さんに背を向ける。
自分の勢いに押されて、目じりに涙が滲んでしまう。


「こんなの、何の意味もない……。私……お稽古止めます」


自分でも説明出来ないいくつもの感情が心の中で渦になって、私はそんな言葉を放っていた。


「これ以上やっても、御影さんの手を煩わせるだけです」

「志麻」


御影さんの声が、私を咎めるようにトーンを変える。
スッと立ち上がった彼が肩に置いた手を、私は思いっきり振り払った。
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