君の隣
――その夜。

 自宅マンションに戻った理名。

 彼女はソファに座り、理名は黙ったままパンフレットを見つめていた。

 ホルモン療法についての資料──
副作用、服薬スケジュール、リスクとメリット。

拓実はキッチンからお茶を淹れて戻ってきて、
その横顔をじっと見つめた。

「どうだった?」

「……予想してたより、怖かった」

「副作用?」

「うん。
 副作用が、結構しんどくて。

 仕事、今のまま続けていけるかな……」

理名は顔を伏せた。

「私……変な話だけど、“戻ってきてよかった”って思えた。
 
その矢先に、
 “また壊すかもしれない”って言われた気分で……
 
なんだか、立ってる場所が揺れてるみたい。

正直、怖くて仕方ない」

拓実は理名の隣に座り、そっと肩を引き寄せた。

 額を、彼女のこめかみに寄せるようにして、静かに言った。

「俺は、どんな決断でも支えるよ。

 治療を選んでも、選ばなくても、理名の身体は理名のものだ。

 ちゃんと怖がってくれて、ありがとう。

  無理に平気なふりしなかったこと、俺はすごく嬉しい。
 ……怖さを、ひとりで抱え込んでたら、

 俺はずっと、それにも気づけなかったかもしれないから。

 もう、きみにあんな思いはさせたくない。

 お願いだから、全部をひとりで抱えないって、約束してほしい」

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