君の隣
理名が顔を上げる。


理名の頬が少し緩み、目元に光がにじんだ。

「……ほんとずるいよね、拓実って。

 そんなこと言われたら、泣くしかないじゃん……」

拓実は、そっと彼女の手を握りしめる。

「夜が長いなら、何度でも灯りを点けるよ。
 一緒に、迷っていい。
 怖がっていい。

 ……それがふたりってもんでしょ?」

理名は静かに頷いた。

 すぐに答えが出せなくても、ここには戻れる場所がある。

 それだけで、少し呼吸が楽になる気がした。

 

数日間、理名はパンフレットとにらめっこを続けた。

日中は患者の診察に追われる。

 肺音、呼吸数、X線所見──

 頭の中は慣れ親しんだ医学用語で埋まっている。
それなのに、ふとした瞬間に、自分の体内のことがちらつく。

(治療を始めることで、また“自分が自分でなくなる”ような感覚になったら──)

そう思うたび、気を張ってきた糸が、またひとつ切れそうになる。

「岩崎先生?」

声をかけたのは、産婦人科医の朱音だった。

「……少しだけ、時間ある?

 話せるかしら」
 

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