君の隣
注射は、驚くほど静かだった。

 腕にちくりと刺さった瞬間も、薬剤が入っていく感覚も、
どこか現実感が薄くて──

 むしろ心の中に広がる波紋のほうがずっと鮮明だった。

(本当に、始まったんだ)

朱音の言葉どおり、治療はシンプルだった。

 診察室で医師の指示を受け、淡々と手順をこなす。

 理名自身も医師として、何度となく患者にこの治療を行ってきた。

 でも──今、自分が“患者側”になったことで、
すべての重さが変わって感じられる。

帰宅してからも、体に大きな異変はなかった。

 ただ、背中の奥のほうがじんわりと重い。

身体の中心が、ひそやかに“何か”を変えはじめているような感覚がある。

「……どう?」

 キッチンから顔を出した拓実が、遠慮がちに訊いた。

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