君の隣
「まだ、何も。

 強いて言えば……眠気、かな。

 あと、ちょっとだけ寒気」

「それ、体温下がってるかも。

 測ってみて」
拓実がそっと体温計を差し出す。

 まるで“彼女の主治医”のように、慎重に。

理名は笑いながら受け取った。

 「もしかして、医学的興味で観察してる?」

「……半分はね。

 でも残りの半分は、ただの“心配性の夫”だよ」

 拓実の答えがあまりに率直で、思わず理名は噴き出した。

変化は、日常の隙間から忍び込んできた。

 注射の数日後。

午前の外来、3人目の患者が終わった頃。

 急にズシリと肩が重くなり、目の奥が締めつけられるように痛んだ。

(あ……これか)

ホルモン療法の副作用──軽い頭痛。

わかっていたはずの症状なのに、自分に起きると不安になる。

このまま午後の回診まで持つのか。

 患者の前で表情を保てるか。

 「いつもどおり」を装いながら、理名はそっと診察室の椅子にもたれた。

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